なごやのチカラ/キャリアナビゲーターのお仕事をクローズアップ~広報なごや12月号~
広報課の小室です。12月号の広報なごやシリーズ「なごやのチカラ」にご協力いただいたのは、有松中学校で勤務する渡邊 江李賀(わたなべ えりか)さん。生徒さんを支援する上でのやりがい、仕事にかける想いについて聞きました。
(以下―は小室が発言、回答は渡邊さん)
―キャリアナビゲーターとはどのようなお仕事なのでしょうか
キャリアナビゲーターは、「児童生徒が、自分・他者のよさに気づき、自分らしく生きていくための力を身に付ける」ための支援をしているお仕事です。現在は、一部の市立中学校に常勤で配置されており、キャリアコンサルティング(将来設計、キャリア・プランニングなどについての相談)を行う専門職である「国家資格キャリアコンサルタント」の資格を有しています。
具体的には、総合的な学習の時間などを中心に「勤労観の醸成」「金融教育」「自己理解・他者理解」「コミュニケーション力アップ」「チームビルディング」「ライフキャリアプランニング」など様々なテーマでの授業や、働く人を招いての「職業講話・仕事体験」のコーディネート、自分や将来を見つめるきっかけとなる啓発資料(おたより)の発行、先生方や保護者に向けた研修(家庭教育セミナー、現職教育)などを行っています。
―これまでのキャリアナビゲーター経験の中で印象に残っているエピソードを教えてください。
授業を行った際に、生徒から「最初は、職業や仕事について全く興味がなかったが、授業を受けて、将来について考えるのは楽しいと思った」「未来が何も見えない、真っ暗だと思っていたが、キャリアの授業で夢を見つけていけそうな気がした」などの感想をもらったときがとても嬉しかった経験です。キャリアナビゲーターの授業を聞く前は、働くことや将来について考えることが億劫でネガティブなイメージを持っていた子たちが、少し前向きに考えられるように変化した瞬間は、この仕事の一番の喜びであり、使命を果たせている実感が得られます。
大変だったことは、先生方とのコミュニケーションや学校文化に慣れ、馴染むことです。自身は、教員免許を持たず、民間企業での経験が長いことから、これまでの企業での常識と学校の常識が異なり(どちらが良い・悪いではありません)、自分が何気なくやっていたことが失礼にあたることであったり、授業の意図や想いがうまく伝えきれなかったりと、もどかしく感じる場面が多くあります。その際には、先生方の考えや意図を把握しようとこまめに質問や確認をしたり、認識が揃うまで丁寧にコミュニケーションしたりすることを心掛けています。
―生徒さんと話すにあたって、話しやすいよう心掛けていることはありますか。相談をしてくれるようになるまで、打ち解けるコツなどがあったりするのでしょうか。
授業の時間だけでなく、登校時の挨拶活動に参加したり、部活動や委員会活動、行事の練習などにも顔を出したりして、日頃から積極的に生徒の皆さんと交流することを心掛けています。まずは、学校生活の中に当たり前にキャリアナビゲーターがいて、保護者や先生とは違った立場で話せる大人がいることを知ってもらうことで、進路や将来について悩んだときに相談しやすい関係づくりをしています。
―中学生というとまだまだどんな進路も選べる時期です。言い換えれば具体的な進路に進んでいる自分をイメージするのも難しい時期なのではと思います。そういった生徒さんたちを支援するにあたって、どんな流れで支援を組み立てるのでしょうか。
「具体的な進路に進んでいる自分をイメージするのが難しい」生徒の場合、「職業・仕事の選択肢を知らない」、「自分がどんな職業・仕事が好き・嫌い、得意・苦手かを知らない」「ロールモデルとなる大人が身近にいない」ことなどが原因として挙げられます。そこで、
➀職業カード等のツールやタブレットを用いての探究学習の授業を通して、世の中にどのような職業・仕事があるかを知る(職業理解)
②職業レディネス・テスト(注:6つの職業領域に対する「興味の高さ」、「職務遂行の自信度」、「人・物・情報への興味」を測ることで、自身の適性や興味について知ることができる)等のアセスメントを用いて、自身の興味のある仕事・職業、できそうだと自信のある仕事・職業について理解する(自己理解)
③実際に働く大人を招いての職業講話・仕事体験を行う(ロールモデルの探索、職業理解)
などの支援を、できるだけ低学年のうちから、単発ではなく年間を通して系統だてながら複数回実施する形で支援を行っています。
―そういった支援の中で、難しさを感じることや工夫をしていることなどはありますか。
将来の夢=職業というイメージが強く、どうしても「なりたい職業(=将来の夢)がない」ことは悪い、と思ってしまう子がまだまだ多く、将来を考えるうえで職業に縛られすぎてしまうことに難しさを感じています。
なりたい職業は、決まっていなくても、例えば、「人の役に立つ仕事がしたい」「大好きな動物に関わっていたい」「かっこいいスーツを着て仕事をしたい」等、自分が大人になって働くうえで「どうありたいか」を描けていれば、十分だと思います。また、なりたい職業が決まっている子も「どんな〇〇(職業名)になりたいか?」まで考える必要もあります。授業やおたより、普段の関わりを通してこういった考えを伝え続けることで、柔軟かつポジティブに将来について考えてもらえるようにしています。
―コロナ禍になり教育の現場でも多くの変化があり、神経を使われていると思います。生徒さんたちの将来に対する意識にも、変化が表れていると感じることはありますか。
コロナを機に「リモートワーク」「在宅勤務」などが広まり、働き方が大きく変化したことで、「職業・仕事」以外に「働き方」にも着目して考える生徒が増えたように思います。
―今まで実施されてきた支援の中で、一番生徒さんたちのハートを掴んだ講義・ワークショップや工夫されたものを教えてください。
職業講話・体験学習のオリエンテーションの授業です。職業講話・体験学習でどのようなことを学ぶかを話す前に、「働くこと」「自分のこと」「将来のこと」をもっと知りたい、考えたいという気持ちを醸成するために、アイスブレイク*を工夫しました。(*アイスブレイク:講義の始めなどに緊張をほぐすために行う簡単なクイズや雑談などのこと)
具体的には、最初に30秒で周りを見渡してから目をつむり、赤いものが何個あったかを思い出してもらいます。その後、2回目は、「赤いものをできるだけたくさん見つける」という指示のもと30秒で周りを見渡します。どうして2回目の方がたくさん赤いものを見つけられたか考えてもらい、「赤いものを探そう」と意識することでたくさん目に情報が入ってきたことを理解してもらいます。将来のことも同様で、「自分の将来について考えよう、自分に合う仕事・職業を見つけよう」という意識があるとたくさん情報が入ってきて、意識しないで過ごすと、折角まわりにたくさん情報があってもそれをキャッチできずに素通りして終わってしまうことを伝えました。
生徒の感想では、「大人になれば「働く」を知ると思っていたけど、自分で知ろうとしないとダメなんだと知りました。」「今日オリエンテーションを受ける前は、全然職業とかに興味がなかったけど、これからは、何年かしたら社会人にもなるので、さっき言ってた通りに考えて、探してみようかなと思いました。」といったコメントがありました。
―年頃のお子さんを持つ保護者の方の中には、子どもの進路がどうなるのか、子どもが進路についてどう考えているのか、不安に思っている方も多いのではと思います。保護者の立場からはどういった関りや支援をするのがよいのでしょうか?
保護者の方の、働くことへのポジティブな姿勢は、お子さんたちにとっても良い影響を及ぼします。どんな仕事をしていて、どんなやりがいや面白さがあって……働く大人の一人としての意見をぜひお子さんにも伝えていただきたいです。
そのうえで、ぜひ、①進路についてのお子さん自身の考えを否定せずに受け止めてあげていただきたいです。そして、②なぜその仕事・職業に興味があるか?どんな〇〇(職業)になりたいか?具体的にどうやったら・どれだけ頑張ったらなれるのか?等、お子さんの考えを深めるような問いかけをしてあげてください。特に進路について明確な考えがない子に対しては、③将来=職業だけに縛られすぎず、「どんな生活を送りたいか?」「どんな大人になりたいか?」を問いかけて考えるよう促していただきたいです。
―最後に、生徒や保護者など、これからのキャリアを考えている方々へのメッセージを最後にお願いいたします。
「未来」は、「現在」の積み重ねの延長にあります。「自分らしい理想の未来」が、自身の中でたとえ不透明かつ具体的でなくとも、「自分らしい人生って何だろう?」「何が自分にとって幸せ?」「大人になったら、どんな風に過ごしたいか?」と、「現在」の自分に問いかけることで、つま先は、「自分らしい理想の未来」へ向き、進んでいきます。
キャリアといっても何から考え始めたらいいか分からない、という方は、ぜひ「現在」の「自分」から考え始めてみてください♪その積み重ねが、「自分らしい理想の未来」の実現につながっていくはずです。
いつでも応援しています!
【おわりに】
今回、取材で有松中学校へお邪魔しましたが、「すごく良い方なのでたくさん話を聞いていって!」と言ってくれた生徒さんや、合間合間で楽しそうに渡邊さんに話しかける生徒さんの様子が印象に残っています。渡邊さんへの信頼を感じる一幕ですね。
気軽に相談できる距離感から、生徒さんの未来につながる支援が組み立てられていくのだと思います。キャリアナビゲーターの皆さんは子どもたちの未来を応援する大切な「なごやのチカラ」だと感じました。