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なごやのチカラ/イーブルなごや相談室のお仕事をクローズアップ~広報なごや8月号

広報課の執行です。今回、広報なごやシリーズ「なごやのチカラ」で取り上げたのは、イーブルなごや相談室の村瀬さん。行政と共に名古屋を支える人、行政で働く人をクローズアップし、名古屋のチカラの源を紹介します。


イーブルなごや相談室・・・
女性が直面するさまざまな問題について受け付けている相談窓口。「女性だからこうでなければ」といった性別役割的な見方を問い直し、相談者の気持ちを尊重しながら主体的な解決を目指します。
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今回お話を伺ったのは、イーブルなごや相談室の村瀬智子(むらせともこ)さん。現在、相談員が受けた相談内容に対する助言やよく受ける相談テーマを取りまとめて、問題解決につなげるセミナーなどを企画し運営しています。

スポーツ市民局男女平等参画推進室主査(相談)
村瀬 智子さん

―村瀬さんが相談員の仕事をしたいと思ったきっかけを教えてください。
 
悩みを持っていても「あなた一人ではないんだよ」ということを周りの人にも感じてほしい
30年前に名古屋に引っ越してきたときに2人目の子どもが生まれたばかりで、知人もおらず子育てがとても辛かったんです。そのとき育児サークルに参加する機会があり、同じ会の参加者と「辛いのは自分だけじゃない」という思いを共有することができ、自分の心が少し楽になりました。そこでつながりの大事さを感じ、悩みを持っていても「あなた一人ではないんだよ」ということを周りの人にも感じてほしいと思ったのがそもそものきっかけだったように思います。

「女性が一人で子育てしなければならないのはおかしいのでは?」とも思うようになって、「女性を支援したい」という気持ちにつながりました。そこから勉強をしつつ、民間や別の機関の相談員をやっている中で、イーブルなごや相談室の相談員の募集を知って応募しました。

―普段はどのようなお仕事をされていますか?
 
イーブルなごや相談室の相談員として12年間、現在の仕事内容に変わって8年になりますが、今は、相談室に寄せられる個別の相談の全体を見つつ、相談員と一緒にプログラム・セミナーなどの企画と運営を行っています。

―実際の相談を受けられることはないのですか?
 
今現在は、ほとんどありません。ただ、相談内容によって関係機関と連携を緊密にしなければならないときなどは、担当につくこともあります。また、新しい相談員が入ったときに研修の一環として面接室に一緒に入って相談応対をそばで見てもらうこともあります。日頃相談員が受ける相談について、必要な助言もします。

―現在は相談員のバックアップであったり、プログラムやセミナーの企画をしたり、相談室の運営が主な仕事なのですね。
 
はい。相談室というと相談だけしているイメージかもしれませんが、相談から見えてくる共通した問題をセミナーやプログラムとして企画して必要としている方に提供するといったこともやっています。

―相談はどういった方が対象になるんですか?
 
相談は女性の方を対象にしています。残念ながら世界の中で日本は男女格差がとても大きい現状があります。コロナ禍でも浮かび上がりましたが、さまざまなしわ寄せが女性に行ってしまう。ですからまだまだ女性への支援が必要だと思います。

―村瀬さんは、女性にこうなってほしいといった思いはありますか。
 
女性が直面する悩みは、社会全体の問題だと思う
女性が直面する悩みは、「自分自身」の問題でもあるし、社会全体の問題でもあると思っています。相談者が陥っている状況は、実は社会がその人に役割を押し付けていることが原因だったりもするんです。その状況下ではなかなか難しいですが、こうあるべきといった役割にとらわれることなく、女性もいきいきと自分らしく人生を生きてほしいなと思います。

―世の中に悩んでいる女性の方は多くいますよね。
 
悩んでいる人と相談を受ける人(自分)と分けるのではなく、悩んでいる人の問題は同じ社会の中で生きている私自身の問題でもあります。悩みを生じさせている社会のありようを変えていく、誰もが自分らしく生きていけるようにしていくことも必要だと思います。

―「イーブルなごや相談室」では、普段どのような相談に対応していますか。
 
年間3,500件以上の個別の相談を受けています。その中でも一番多いのがDV(ドメスティック・バイオレンス)を含めた暴力の相談です。約3割を占めます。暴力の中でも約8割がDVです。続いて家族や親族に関する相談 、夫婦関係いわゆる離婚に関する相談、職場や地域の人間関係です。

―相談者はどういったきっかけで相談にいらっしゃるのですか?
 
ずっと問題を抱えていたけれども何らかのできごとが起こって「もう限界」ということでしょうか。電話相談では「夫婦関係がうまくいってない」とか「PTAでの人間関係がうまくいかない」「家族のことで相談したい」などさまざまです。面接相談ではほとんどが背景にDVがあって、これからどうしていくか考えたいということで相談にいらっしゃいます。

―「女性のための総合相談」と聞くと何を相談していいのかよくわからないといった声はないですか?
 
「総合相談」と名前をつけたのは、「どういった相談をしても大丈夫」といった思いを込め、相談するというハードルを低くしたかったからです。女性が抱える問題は複雑に絡み合っていることが多いので、分断をせずに「まずはお話を聴かせてください」という感じです。ただ、今お話しをしていて「何を相談したらいいかわからない」といった考えもあるんだなと思いました。

相談そのものに対する抵抗感や、「こんな相談内容で相談してもいいのだろうか」といった迷いから、「相談する」ということのハードルが高いのはよくわかります。相談される側もやっとの思いで相談されたということを、私たちもしっかりと受け止めなければならないと思っています。また、相談に至らない方たちをどう相談するまでにつなげるのかも課題だと思っています。

電話相談を受ける相談員の様子

―イーブルなごや相談室としてこれからやろうとしていることはありますか?
 
現在は電話相談が相談の入り口になっています。相談室が開設された20年前は電話がいつでも掛けられてハードルが低い相談方法だったのですが、今の若い方はあまり電話をしませんから、今後はSNSを使った相談を考えています。

また、6月末からイーブルなごやの中に「イーブル―ム」という、気軽に立ち寄り自由に過ごせる居場所が週に1回のペースでオープンしています。そのような場所から相談につなげることができるといいなと思っています。

―「イーブル―ム」には、支援員さんは常駐されているのですね。
 
はい。受託事業者による支援員さんや周りの人とおしゃべりをしてつながりを感じたり、孤独感を減らしたりすることができればと思います。ボランティアの方も来ていただいてちょっとした「手仕事」をすることもできますし、もちろん一人でゆっくり過ごすこともOKです。

―「イーブルなごや相談室」において、相談される方のために何か工夫をされていることや心掛けていることはありますか?
 
「悩みは自分一人だけのものではない」そういった視点がすごく大事だと思っています。その人だけに問題があってその状況に陥っているのではなく、社会がその人に役割を押し付けていることが原因の一つであるといったことを踏まえて相談を受けています。

また、その人がその状況に陥ってしまった経緯などをしっかり聴いていきます。その問題の解決に向けて、こちらから指示するのではなく相談者自身がどうしたいのかを大事にして、そのために何ができるのか一緒考えていきます。

―その対応の方向性は、相談員個人ではなく相談室全体の方針として共有されているのですか?
 
今年度は8名の相談員が交代で相談を行っていますが、イーブルなごや相談室では個人で相談を受けるのではなく、相談室全体として相談を受けるということが基本です。相談する方にとって、どの相談員が担当しても同じような対応を受けることができます。もちろん、相談経験の差をなくすために研修にも力を入れています。

―どのように対応方針を決めているのでしょうか?
 
相談の入口は電話相談ですが、実際に面接相談に来た方が解決につながりやすい場合は面接相談をお勧めします。また初めから、面接相談を受けたいという方もいらっしゃいます。面接相談に来るということが決まったら、スタッフ全員で会議を開きます。週に1回あるその会議では、相談者をどのようにサポートしていくかという今後の方針をスタッフ全員で決めていきます。面接相談は心理的な治療ではなく、具体的な問題の解決に向けて3~5回ぐらいを目途に継続して行います。


 ―どのくらいの相談者がいらっしゃるのですか?
 
1カ月に約300件です。

―多いですね!8人で相談を受けているんですよね。
 
電話相談は多いのですが、実際に面接相談いらっしゃるのは月に20~22件くらいです。

―相談者は最初はゴールを思い描かずにいらっしゃいますか?
 
何から手をつけたらいいかわからないといった方や、解決方法がわからないという方もいらっしゃいます。多くはありませんが、最初から具体的な解決の方向性を決め相談に来られる方もいます。やはり、これからどうするのかを具体的に決めている方は少ないですね。

―わからなくてもとりえず相談に行けばいいわけですね。
 
そうですね。ただ、相談では「こうしなさい」とは言わないんですね。私たち相談員と一緒にどんなふうになったらいいと思われるのか、丁寧にすり合わせをしながら話し合っていきます。

―3~5回面接相談を受けると解決するのでしょうか?
 
あらかじめ電話相談で話し合って、面接相談で取り組む具体的な問題を決めてから利用していただいています。その問題の最終的なゴールを見据えて、相談室ではそのための見通しをつけるところで終了することもあります。

―「最終ゴールにいきました」といったうれしい報告はありますか?
 
あります。面接の最後の日に「ここまで来たら連絡くださいね」と伝えたら、きちんと報告してくださる方は何人もいらっしゃいます。また、ゴールが見えていたけれどうまくいかなくて再相談される方も中にはいらっしゃいます。

プログラムの参加者が思い思いに書いたメッセージ

―その方は、一度相談しているのでここに行けば相談できるということがわかっているので相談しやすいですね。
 
そうですね。でも、初めての方にとっては自分の恥ずかしい話や思い出したくないことをその日初めて会った人に話をするのは、かなりハードルが高いのではないでしょうか。

―私自身知らない人の方が話しやすいのですが、そういった意見はないですか?
 
確かに、そういうこともありますね。同じことを言われたことを思い出しました。ただ、知らない相手だとしても、うれしいことや楽しいことを話すわけではないので、聴く側は「話していただいてありがとうございます」という気持ちで聴いていくことが求められると思います。

―相談者には一歩踏み出していただくのが大事ですね。
 
「あきらめずに相談してほしい」「あなたのことを責めずに話を聞いてもらえるところがあるよ」
ここに相談に来るまで、周りの人に相談せずにいたという方も多いのですが、勇気をもって周りの人に相談したのに相談相手に言われたことで傷ついたり、そこから自分が悪いんだと思ってしまう方もいらっしゃいます。そうすると相談するということが怖いと感じ、もう一度誰かに相談しようという気持ちにならないかもしれません。

でも、あきらめずに相談してほしい。あきらめずに相談して、「あなたのことを責めずに話を聞いてもらえるところがあるよ」と声を大にして伝えしたいです。

―そこがイーブルなごや相談室ですよ!ってことですよね。
 
そうです(笑)!
私たちは、相談者の心と体の安全を第一に考えています。

―仕事を通して今まででうれしかったことはどういったことでしょうか?
 
詳しい中身は言えませんが、何回か相談を重ねるうちにあきらかに表情が変わってくる方がいらっしゃいます。そういう方を見ていると人って「力を取り戻していけるんだな」とか「変わっていけるんだな」と。そして相談者の方に起こった変化が、社会を少しずつでも変えていくことに結びついていくと信じることができるんです。

自分で選択して自分を取り戻していくその姿を見て、「人間の力って、とてもすごいな」と思います。そのプロセスに立ち会わせてもらえることは、私たちにも大きな力を与えてくれます。そういった人間の強さを感じることができるとき、この仕事をしていてよかったなと思います。

―逆に、とても大変だったこと、だからこそやりがいを感じたことなどはあるでしょうか?
 
深刻な被害の相談もあります。支援をしていくことは大変なんですが、だからこそもらえるものもたくさんあります。たいへんな状況の中で何とかやってこられた相談者の方が持っている多くの知恵は、私たちの財産になって相談に生かされています。

―最後に、市民の皆さんへメッセージをお願いします。
 
相談に来られる方のことを決して力のない人、弱い人とは思っていません。相談をするということは力がないとできないことです。繰り返しになりますが、あきらめずに相談に来てほしいですね。「ここは大丈夫」と胸を張って言える相談室であり続けたいと思います。小さなことでもいいので、こんなことで相談していいのかなと思わずに、まずは電話でもSNSでもいいので相談してください。

<終わりに・・・>
今回村瀬さんに直接お会いして第一に感じたことは、村瀬さんの全身からあふれ出る優しさです。このような相談員さんだったら親身に話を聞いてくれるんだろうなと心の底から思いました。

また、実際に相談に来る方だけではなく、相談できずにいる方をどうにかして相談につなげる方法はないのかと常に考えていらっしゃる村瀬さんに「なごやのチカラ」を感じました。皆さんも、悩みがあったら気軽に相談してみてください。

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