災害時に一人の犠牲者も出さないために~北一社学区の防災室の取り組み事例~
こんにちは。名東区のコミュニティサポーターの渡辺です。
私たちコミュニティサポーターは、交通安全や防犯、町内の美化、高齢者や子育てのみまもり、防災の取り組みなど、住みやすいまちをつくるための地域活動を支援する職員です。地域活動を支援する中で出会った魅力的な活動や課題解決のコツ、地域活動の舞台裏などを名古屋市公式noteの中の「ミンナノまちづくり」マガジンとして発信しています!
近年、自治会や町内会に加入されていない方もいらっしゃると思いますが、このマガジンを通して地域とのつながりの大切さを感じ、地域活動に参加してみようという方が少しでも増えたらうれしく思います。
そんな思いで始まったマガジン「ミンナノまちづくり」。前回はマガジンの概要を紹介しましたが、今回からは地域の活動を紹介していきます。第1回の今回は、地域の手で災害に強いまちづくりを行っている北一社学区の「防災室」の活動を紹介します。
「防災室」は、北一社学区にある12の自治会の防災活動をまとめるために作られた組織のことです。
普段の私たちの生活の
・防災意識が高まり、
・協力することの大切さに気づき、
・防災活動を通じて地域の絆づくりに
なれるようなお話を聞けましたので、ぜひ最後まで見てくださいね!
防災室立ち上げのきっかけ
北一社学区の防災室は2015年6月に、自治会長や、保健環境委員会長をされていた高鳥さんを中心に立ち上がりました。
北一社学区は
・標高50mという立地のため水害の心配がない
・全体的に地盤が強固である
・新しく建てられた比較的頑丈な家が多い
・転勤者が多く、その多くが地域に関心が少ない
などの理由により防災・減災の意識が低くなってしまっているのではないかという懸念がありました。
また、各町内にある「自主防災組織」もほとんど活動していないという状況。
このことに危機感を覚えた高鳥さんたちは各町内会にある「自主防災組織」を機能させて高い防災レベルを維持するために北一社学区に「防災室」を立ち上げました。
北一社防災室の想いは、「災害時にひとりの犠牲者も出さないこと」、そして学区内の住人には普段から防災意識を高め、「被災者になるのでなく支援者になってほしい」ということです。
北一社学区の取り組み内容
それでは実際に北一社学区では、どのような活動をしているのでしょうか。
・「防災室」を中心とした活動
・地域のコミュニティでの活動
の両面からお伝えしていきます。
「防災室」を中心とした活動
北一社学区の「防災室」を中心とした活動は多岐に渡ります。
その中でも
・避難所運営訓練の実施
・災害時の飲料水確保
・スペシャリスト集団
について紹介させていただきます。
避難所運営訓練の実施
北一社学区では、年に1回、避難所運営訓練を実施しています。
令和5年度は、11月に
「北一社小学校」と「千種高校」と「北一社コミュニティセンター」の3カ所で同時に実施。
今回は、「北一社小学校」と「千種高校」での訓練に密着させていただきました。
この2カ所では、
「総務班」「情報班」「施設班」「食料班」「物資班」「救護班」の6つの班に分けて訓練を実施しています。
・「総務班」「情報班」は避難者の受付、情報掲示板の設置、避難所の統括
・「施設班」は避難者が過ごすことになる場所の区画作り
・「食料班」は地下式給水栓の使い方の訓練
・「物資班」はトイレの設置、発電機始動訓練
・「救護班」は発熱者室の設置、救急用品の準備
2年ごとに班が移り変わっていき、12年ですべての班を経験することになります。
そのため実際に災害が起きたときには、充分に訓練が実施されたメンバーで活動がされるので安心です。
それでは、実際の訓練の内容を紹介します!
災害時の飲料水の確保
災害時には「飲料水を確保すること」が重要なことは言うまでもありません。
給水車に頼るだけでは不十分なので、地域の中で飲料水を確保する仕組みが必要です。
これまで北一社小学校の地下式給水栓は小学校の外の道路上にあり、マンホールにいちいち頭を突っ込み蛇口を操作しなければなりませんでした。
また、設置場所の横を車が通るので大勢の人が給水する場合は交通整理をする必要がありました。
そこで、防災室でマンホールの蛇口をワンタッチカプラーとしました。
ワンタッチカプラーとは、延長ホースで簡単に接続できるように改造し、延長先では3口の蛇口のついた器具を準備して、安全な場所で複数人が給水できる仕組みのことです。
蛇口は使いやすい高さに設置され、高齢者や子どもでも簡単にポリタンクに水を入れることができます。
材料はホームセンターで調達したものですが、見た目も美しく高い完成度。
「自分たちの力で作り上げる」、まさにメンバーの創意工夫の結集です。
また、千種高校には、北一社小学校とは違い「地下式給水栓」がありません。
その代わりに校門の横に24トンの水が入る受水槽タンクがあります。
しかし、停電時にはこの水を取り出せないことが問題でした。
そこでタンクの下部に「緊急時取り出しバルブ」をつけて非常時には活用できるようにしています。
このバルブの設置には労力がかかりました。
県や区役所などの各方面に設置の要望を出し、有用性は認められましたが、苦労したのは予算の捻出です。
千種高校と協力し、工事費用を学区で負担し「寄付」の形を取ることで実現できました。
スペシャリスト集団
北一社学区の「防災室」は11人で構成され、それぞれがスペシャリストです。
主メンバーには
・区政協力委員会の委員長が「室長」
・区政協力委員会の副委員長が「副室長」
・消防団団長
・民生・児童委員協議会会長
となっています。
また、「防災室」事務局には、2人の女性が所属しています。
1人は看護師経験者で、もう一人は介護士です。
それぞれの目線で、また女性の目線で避難所の備蓄品(救護用品)や避難所の施設づくりのアイデアを出しています。
さらにアマチュア無線の資格を持ったメンバーもおり、災害時の情報交換手段を整備しています。
災害に備えて、学区内の情報交換には災害救助地区本部と各自治会、各避難所間の情報交換に、資格の要らない「デジタル簡易無線(3R登録局)」を約100台所有し、速やかに情報交換できるようにしています。
他学区との情報交換には、「なごや災害ボランティア連絡会アマチュア無線」に参加し、アマチュア無線を利用しています。
また、無線機の取り扱いも講習会を毎年開催してくださっており、「防災室」に無線機取り扱いが定着するように取り組んでいます。
地域のコミュニティでの協力
ここまで、防災室の取り組みの一部をお伝えしてきましたが、皆さんのお話を聞くと地域活動の至る所で防災意識が高いことが伝わってきます。
その中から
・ボランティア活動
・防犯に関わる活動
についてお伝えします。
ボランティア活動
北一社学区には「生活支援ボランティア」という制度があり、28人のボランティアの方がいます。
防災の分野でボランティアの方が関わるのは、大地震に備えて学区のご家庭の家具固定のお手伝いをすることです。
社会福祉協議会の地域支えあい事業の一環としてスタートし、コミュニティセンターが窓口になって、相談の受付やボランティアの募集もしています。
防災以外にも
・活動は道路や隣家へはみだした庭木の枝はらいや剪定
・資源ステーションへのごみ出しのお手伝い
など多岐に渡ります。
防犯に関わる活動
北一社学区は「防災」だけでなく「防犯」への意識も高いです。
防犯灯の単面積当たりの設置数は名東区内で一番多く、名古屋市でも上位5番目。
2018年に防犯灯のLED化率100%を達成しました。
LED化したことで節約できた電気代で購入できたのが無線機と消火スプレーです。
この無線機は、先ほど紹介したような災害時の活用だけでなく、子どもの「0の日交通立ち番」などで子どもの通学見守り活動でも活用しています。
子どもが無事に通学できているか無線を使って連絡。
このように、普段の地域活動でも活用しています。
また、北一社学区にある半数以上の自治会では浮いた防犯灯の電気代から消火スプレーを全自治会員に配布。
さらに4年ごとに再配布しているところもあります。
普段から取り組める防災への備え
地震調査研究推進本部によると、南海トラフ地震が発生する確率は
・今後30年間で70〜80%程度
・50年以内では90%程度
とされています。
1月に起きた能登半島地震の状況に、改めて防災への意識を高めている方もいらっしゃると思います。
普段からどのような備えをしたらいいのでしょうか。
こちらについても「防災室」の方々に伺いました。
まずは家具を固定することです。
北一社学区では先述のボランティア団体が家具固定のお手伝いをしております。
そして備蓄品を準備することです。
最低限用意しておいた方がいいものは
・保存水
・非常食
・トイレ用品
・消火スプレー
です。
水と食料は最低10日分。
「飲料水」にアルファ化米、レトルト食品、パン・クラッカー、缶詰めなどです。
「トイレ用品」には非常用簡易トイレと凝固剤が必要です。
「消火スプレー」は高齢者や子どもにも使い易く置き場所にも困らないものをお勧めしています。
おわりに
ここまで、
北一社学区の「防災室」の活動
それに付随する地域活動
私たちが取り組むこと
についてお伝えしてきました。
最後に防災室事務局代表の岩井さんからメッセージをいただきました。
「人生100年時代と言われる時代になりました。
仕事をリタイアしてから第2の人生を充実させるには地域の方々との繋がりを是非持っていただきたいと思います。
北一社学区では、防災だけでなく学区内を巡回し、防犯の呼びかけと監視、点検を行う「青パト隊」、ちょっとした困りことをお手伝いする「生活支援ボランティア」などの活動があります。
さらにコミセンでは、歌、書道、麻雀などの趣味の講座も開催しております。決して無理をする必要はありませんが、地域とのつながりを是非作っていただきたいです。」
いかがでしたでしょうか。
今回は、自治会・町内会という地域活動がいかに大切かということを北一社学区の事例からお伝えさせていただきました。
私は、最後の岩井さんの言葉を受けて地域でのコミュニティづくりがいざという時の結束力になると感じ、コミュニティサポーターとしてより一層地域活動の支援に励んでいきたいと思いました。
皆さんのこれからの地域活動においても励みになるよう、この記事に立ち返ってくださるとうれしいです。