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幅広い不妊治療に取り組む「生殖医療センター」を開設しました(名古屋市立大学医学部附属西部医療センター)

皆さん、こんにちは。生殖医療センター長の梅本幸裕です。
2023年9月に開設しました生殖医療センターについて、わかりやすく説明できればと思っています。よろしくお願いします。

名古屋市立大学医学部附属西部医療センター 副病院長
生殖医療センター長 梅本幸裕

厚生労働省が発表した人口動態統計(概数)によると、令和4年の出生数は、77万747人と統計開始以来初めて80万人を下回りました。これは国の想定していた時期より11年も前倒しの数値となります。令和4年4月から、不妊治療の一部は健康保険の適用になっていますが、出産数は右肩下がりです。このままでは20年後には働き手もいなくなってしまいます。
一方で、お子さんを授かりたいと希望しているにもかかわらず、授からず、不妊ではないかと心配な方、不妊治療に悩むカップルの方が少なからずいらっしゃいます。実際、不妊症を心配して病院を受診したカップルは5.5組に1組といわれています。
 
名古屋市立大学医学部附属西部医療センターでは、このような社会情勢に対し、私たち医療者にできることは何かと考え、子どもが欲しいのになかなか授からない方の力になろうと、幅広い不妊治療に総合的に取り組む「生殖医療センター」を開設しました。


生殖医療センターができるまで

これまで当院では、不育症を産婦人科、男性不妊症は泌尿器科にてそれぞれ治療をしていました。
不妊治療を受ける時、一般の病気治療の方や、特に妊婦さん、産婦さんと同じ待合室にいることは、不妊に悩むカップルにとっては多大なストレスになるものです。
そこで、不妊治療に対する心理的な負荷を少しでも和らげたいと考え、西部医療センターでは「不妊」に関する診療機能を1カ所に集約しました。
また、不妊に関する医療的な「知」が1カ所に集結することで、カップルの不妊治療をトータルサポートできるようになります。例えば、女性の不妊のみを診療していると、男性側の原因について見過ごされるケースがありますが、男性不妊・女性不妊を同じセンターで診療することで、「男性側の原因を見過ごさない」といったように、原因を見落とすリスクを軽減することにもつながります。

生殖医療センターの特徴

西部医療センターでの不妊治療の特徴は、体外受精、顕微授精といった治療はもちろん、男性不妊症や不育症といった幅広い不妊治療に対応できることです。不妊治療中に入院処置や手術が必要な時も同じ施設内で対応できるほか、妊娠が成立した場合、ご希望の方は地域の周産期母子医療センターでもある西部医療センターの産婦人科で、出産まで継続して受診していただけます。

また、不妊治療を受ける方の中には、落ち込んだり、不安や孤独を感じたりと、心が乱される方もいらっしゃいます。そこで、生殖心理カウンセラーの資格を持つ公認心理師を配置し、不妊治療を精神面でもサポートします。

男性、女性、両面での治療から出産まで、病院が一体となり総合的に不妊治療に取り組む施設は全国的にも珍しいものです。

患者さんや家族の憩いの場として親しまれる屋上庭園が隣接した場所に開設されました。
待合スペースには、屋上庭園からの光がほんのり差し込みます。
屋上庭園「ひだまりの丘」

当院の不妊治療について

①女性不妊~合併症のある方や、不妊治療に伴う手術も、西部医療センターで一貫して治療できます~

不妊症の検査、タイミング指導、人工授精、体外受精/顕微授精などの生殖補助医療まで、保険診療を中心に行います。
総合病院である強みを生かして、男性不妊症や不育症、合併症のある方への他科との連携、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど不妊治療に伴って必要な手術も、西部医療センターの婦人科において一貫して行うことができます。

②男性不妊~不妊の原因の半数は男性にあります~

夫婦生活ができている、勃起・射精ができているから大丈夫。というわけではありません。不妊の原因のおよそ半分が男性にあります(図1)。
このため不妊治療の際、精液検査は必須の検査です。不妊治療の初めは必ず夫婦で検査を開始することが一番大切です。不妊に悩むカップルは男性も一緒に受診していただき、パートナーとともに治療に取り組んでいきましょう。

(図1) 男性不妊症の臨床 メジカルビュー社 岩本晃、松田公志(編)2007年 p80-87 (WHOの調査:Comhaire FH: Male Infertility. Chapman & Hail Medical. London 1996 より引用)

③不育症~流産をくり返したら「不育症」かもしれません~

流産あるいは死産が2回以上ある状態を不育症(生児獲得歴の有無は問わず、流産または死産が連続していなくてもよい)といい、3回以上連続する流産を習慣流産といいます。
流産は妊娠の約10-15%に発症し、不育症は約5%、習慣流産は約1%に認められます。
不育症の原因はさまざまです。女性側だけに原因があるわけではありません。また、原因不明の場合も多いのです。「不育症かもしれない」と思ったら、ご相談ください。
まず不育症検査を系統的に行い、その原因に応じた治療を行いましょう。

④生殖心理カウンセリング

不妊症治療、不育症治療に取り組むカップルは、診断から治療、出産に至るまで多くのストレスを抱えています。
不妊症治療では女性は身体的負担や生活の変化により不妊に特有のストレスを感じやすいといわれています。また、男性は治療に対する無力感や抵抗感があったり、治療をサポートする立場として辛さを抱え込みやすいといわれています。さらに、不妊症治療や不育症治療はカップルの関係やその他の対人関係を変化させたり、人生や生き方を考えるきっかけとなることもあります。
生殖医療センターでは、お子さまを望むカップルのこころのケアを大切に考え、不妊症・不育症治療の専門知識を持つ生殖心理カウンセラー・公認心理師によるカウンセリングを提供しています。生殖に関わる悩みや不安は、話して相談することが大切です。辛いお気持ちを抱え込まず、ぜひ私たちにご相談ください。

あなたらしく治療と付き合っていけるよう、お手伝いをさせていただきます。

落ち着いた雰囲気の相談室で、しっかりとお話を伺います。

まとめ

不妊治療は自身の体に不具合を感じるわけではないので、なかなか初めの受診には勇気がいるかもしれません。ついつい仕事優先で治療は後回しになるカップルが多いと思います。しかし、時に不妊治療は時間の掛かることもあります。先が見えないこともあり不安になるかもしれません。

是非、お子さんを授かりたいと少しでも感じたときは早めに受診してください(受診を希望される方は一度お電話ください)

早く治療に入ったからこそ、出会える命はあると信じております。思い立った時が治療開始の第一歩になります。スタッフ一同お力になれるように努力してまいります。

※生殖医療センターの受診予約や不妊治療にかかる費用等、ご不明な点がありましたら下記までお問い合わせください。
名古屋市立大学医学部附属西部医療センター 代表 052(991)8121
※生殖医療センターについて、ウェブサイトでもご確認いただけます。

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