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公文書はおもしろい! 市政資料館の企画展「公文書ひろいあるき―見て感じる戦前の名古屋―」のご案内

こんにちは! 名古屋市市政資料館 専門調査員の山形です。

今回は、11月13日から名古屋市市政資料館で開催する企画展「公文書ひろいあるき—見て感じる戦前の名古屋—」についてご紹介します。


名古屋市市政資料館について

このレトロな建物が名古屋市市政資料館です。

名古屋市市政資料館の建物外観

もともとは名古屋控訴院・地方裁判所・区裁判所の合同庁舎として大正11(1922)年に建てられ、戦後も名古屋高等裁判所・地方裁判所として使われました。NHKの連続テレビ小説「虎に翼」の主人公のモデルになった三淵嘉子さんも、昭和27(1952)年12月に名古屋地方裁判所の判事に任命され、約3年半、この建物で勤務されました(当時は和田嘉子さん)。

ドラマ内では戦前の東京地方裁判所として使われていました。
この中央階段、見覚えありませんか?

中央階段

企画展「公文書ひろいあるき」

では、本題に戻りまして、企画展「公文書ひろいあるき―見て感じる戦前の名古屋―」についてご紹介します。

今回の企画展「公文書ひろいあるき」は7つの展示コーナーと公文書解読体験コーナー「くずし字チャレンジ」からできています。↓

1、大津事件 ~お見舞いに行きます!~
2、熱田町会 ~コレラの流行地?!~
3、男女混成学級 ~教室が足りません!~
4、米騒動と寄附 ~名前をまちがえないで!~
5、学校での節約 ~ぜいたくはダメよ!~
6、濃尾大震災40周年の日 ~忘れないために…~
7、押し花 ~はさみ込まれたモノ~
公文書解読体験【くずし字チャレンジ】

興味をひかれるものはありますか?

(1)公文書は面白い?

公文書とは、公務員が職務で作成した文書のことです。
公文書を見ると、市役所などの公的な機関が、どんな目的で何をしたのか、あるいは何をしようとしたのかがわかります。
名古屋市市政資料館では、こうした公文書から歴史資料として重要な公文書を選別し、収集・整理・保存・公開しています。
他にも名古屋市政に関わる行政資料や新修名古屋市史の編纂過程で収集した市史資料も整理して保存・公開しています。

今回の企画展では、そんな当館が所蔵する公文書から面白いものをピックアップして紹介します。
たとえばこんな感じです。(公文書解読体験【くずし字チャレンジ】より)

『教育関係書類綴』(簿冊ID7539(A教T4)索引8(画像デジタルデータより)

う~ん、パス! そう思われたそこのあなた。

そうなんです。
困ったことに、展示で文字ばかりの資料を出しても、実際、見向きもされないんですよね。

なじみのない人にとっては、昔の文字はぐにゃぐにゃで読める気がしない。読めたとしても古い文体は難解でチンプンカンプン。歴史的価値を強調されても「はぁ、そうですか」としか言いようがない…。
つまり、一言でいえば、「つまらない」と思われているんです。

でも、歴史資料は、本当はとっても面白いんですよ。

タイムカプセルを開いた感覚、と言えばわかっていただけるでしょうか。
歴史資料を読んでいると、書いた人の考えや思い、それを支えた当時の雰囲気が全体から伝わってきてゾクゾクします。
当時の空気が感じられるんです。

私の感じているこの面白さ、少しでも伝わらないだろうか…。
今回の展示は、そんな思いで企画しました。

この場を借りて、歴史資料、ここでは公文書の面白さについて力説したいと思います。マニアックですが、ちょっとだけお付き合いください。

(2)色から感じる ~こんにゃく版と撮影画像~

公文書は作成された部局の担当の係ごとや種類ごと、関連事項ごとにまとめられたりして、多くの場合、冊子の状態でとじられています。
これを簿冊と呼んでいます。
公文書は市政資料館に引き渡された後も簿冊単位で管理されていきます。そして、簿冊の中の公文書は内容のまとまりごとに件名で整理されます。

1つのコーナーで紹介するのは主に簿冊1冊。
展示ケース内で原物をご覧いただけるのは、見開きの2ページ分のみです。そのため、他のページは写真画像で展示することになります。

え~、全部原物で見られないの~?
と思われたそこのあなた!
写真画像でこそ伝わる面白さもあるんですよ。

まずは、展示コーナー「2、熱田町会 ~コレラの流行地?!~」で紹介するものから紹介します。下の画像をご覧ください。

議案(『町会議事録 熱田町』簿冊ID7555(A総M12)索引7より)

これは、明治28(1895)年9月8日の熱田町会に提出された第28号議案です。『町会議事録 熱田町』簿冊ID7555(A総M12)につづられています。

ぱっと見て、文字の色が気になりませんか? 大部分が紫色に見えます。

実はこれ、こんにゃく版と呼ばれる複写物です。メチルバイオレットという染料で書いた字をこんにゃくなどで作った版に転写させ、白紙に写し取る複写方法で、まだコピー技術が今ほど進歩していなかった当時、よく使われました。

この簿冊では、町会の議事録は墨筆で書かれています。でも議案はこんにゃく版になっています。つまり、こんな感じです。

議案・議事録を簿冊にとじるイメージ図

議案は複数枚刷って町会で配っていたと思われます。その内の1枚を取り置いて、議事録と一緒にまとめたのでしょう。

ただ、こんにゃく版の文字、ちょっと薄いと思いませんか?
実はこのこんにゃく版、紫外線に弱く、時間が経つと文字がどんどん薄くなって消えていってしまうんです。
また、この写真、よ~く見ると黒い字で書かれた場所があることに気付きませんか?

拡大(『町会議事録 熱田町』簿冊ID7555(A総M12)索引7より)

赤線の部分には、(伝染病予防費概算)と書かれています。墨と筆で後から書き込まれたようです。
実はもう一ヶ所、書き込まれた場所があるのですが、わかりますか?
赤い矢印の部分です。

わからない? ではもう1つ、とっておきの画像をお見せします。

画像デジタルデータ

これは、この議案の画像デジタルデータです。
(画像デジタルデータは、名古屋市市政資料館2階の閲覧室でご覧いただけます。)

実はこの画像、マイクロフィルムからデジタル化したものです。
元のマイクロフィルムがモノクロ撮影だったため、この画像からは色を感じることはできません。
この画像だけだと、これがこんにゃく版であったことはわからないと思います。
しかし、ここには原物では簡単に確認できない “あるもの” が写っています(赤い枠線で囲んだ部分です)。

そう、とじ目です。 “とじ目の奥” が写っているんです!

とじ目

簿冊にすると見えにくくなる “とじ目の奥”。
マイクロフィルムを撮影するときに簿冊のとじ目を外しているので、この部分がはっきり写っているんです。

ここには、「九月七日」「九月八日」と書かれていました。

議事録を見るとわかるのですが、本当は9月7日に町会をする予定だったのです。でも、町会議員の集まりが悪く町会はお流れとなり、町会は9月8日に再招集されて開催されました。どうやらそのことをメモ書きしていたようです。

議事録(『町会議事録 熱田町』簿冊ID7555(A総M12)索引7より)と翻刻・イメージ図

メモ書きした人は書記さん? それとも別の人?
ただのメモ書きですが、なんだか仕事ぶりが目に浮かぶようで、面白いなぁと思ってしまいます。

いかがでしょうか?
写真画像の持つ情報も決して馬鹿にはできないこと、おわかりいただけたでしょうか?
原物のみだと取り漏らしてしまいがちな情報も、こうしてきちんと押さえられる場合もあるのです。

また、写真画像を活用することで、原物の劣化を防ぐというメリットもあります。

モノは時間が経てば経つほど、使えば使うほど劣化していきます。劣化は止められません。これは公文書などの歴史資料も同じです。
ただ、保存に気を付ければ、劣化のスピードを遅らせることはできます。
文書のアンチエイジングです。
写真画像を活用して原物の使用を減らせば、その分、損傷を防ぐこともできるのです。

特にこんにゃく版は、長時間紫外線にさらすと文字が消えてしまうため、原物ではなく写真画像で展示することに大きな意味があります。

さらに、文字が消えてしまう前に撮影をして情報を残していくことにも意味があります。消えてしまったら、もう取り戻せないからです。

原物の持つ情報量は計り知れません。
だからこそ、何をどのように保存し、活用していくのか、よりよい方法を常に模索、実践していく必要があるのです。

展示から、そんなことにも気付いていただけたら幸いです。

余談ですが、私はこんにゃく版を見ると、感熱紙を思い出します。
まだワープロが活躍していた頃、インクリボン(書いていて懐かしい…)を節約するために、よく感熱紙で下書きしていたものです。でも、感熱紙で打った字は時間の経過とともに消えていってしまうんですよね。

今でもレシートに感熱紙が使われていることがあります。
でも、キャッシュレス化の流れでいけば、今後は紙のレシート自体が消えていくのかもしれません。
文字だけでなく、時代遅れとなったモノや技術自体も、時間の経過とともに消えていってしまう…。
こんにゃく版からは、そんなはかなさを感じてしまいます。

(3)読んで感じる~翻刻と4コマ漫画~

次は、公文書の中身を読んでみましょう。
たとえば、下のこの文書。展示コーナー「5、学校での節約 ~ぜいたくはダメよ!~」で紹介する公文書の1つです。

共立尋常小学校の回答(児童生徒の学用品節約に関する回答の件) 『教育関係書類綴』簿冊ID7539(A教T4)索引19より

これは、大正8(1919)年11月に共立尋常小学校(現在の笹島小学校)が名古屋市へ提出した、とある調査への回答です。
とある調査とは、学校での学用品節約の取り組みについて尋ねるものでした。

大正8年は米騒動の翌年です。第一次世界大戦後も米の値段は依然として高く、物価高騰が続いていました。
こうした中、大正8年8月19日に出された文部省訓令第8号では、浪費を省き節約を重んずる美風を養うことが求められました。
電力・水道・ガス・食料品・日用品などの節約はもちろんのこと、学校でも学用品などの節約改善が叫ばれたのです。

この回答には、共立尋常小学校での学用品節約の取り組みが書かれています。
私がこの回答を読んだときに面白いと感じたのは、緑の枠の部分です。
ちょっと読みにくいかもしれないので、翻刻文も載せますね。
ついでに、緑の枠の部分を読んだときに、私の頭の中で繰り広げられたイメージを4コマ漫画にしてみました。こちらも併せて見てみてください。

4コマ漫画と翻刻文

緑の枠の部分では、毎年、父兄会を町別で開催して学用品の節約について話し合っていることが書かれています。中でも「概要」のところに、その父兄会の様子が詳細に書かれています。

夜7時から9時の父兄会では数本のロウソクを灯しています。
怪談話でもするのかと思ってしまいますが、まずは、ロウソクを使うことで電力は節約しているよ、と暗に主張しているわけです。
さらに、暗いから服装の心配をしなくてよく、かえって言いたいことを言いやすい空気まで作れたようで、「腹蔵(ふくぞう:心の内に秘め隠すこと)ナク此際ハ申述ベラルヽニヨリ効果多シ」と書かれています。
父兄会への参加率はなんと94%超え! なんだか書きっぷりが誇らしげです。

ロウソクの暗さによって見栄も遠慮も取り払われた、というこの話。

暗いから服装を気にしなくていいと安心する大正8年の父兄の姿は、オンライン会議で余計なものが映り込まないように苦心する現代人の姿と、相通じるものがあるような…。
人間の根本的な心の動きは、今も昔も変わらないのかもしれません。

「5、学校での節約 ~ぜいたくはダメよ!~」で登場するイラスト

いかがでしょう? 公文書も読んでみると結構面白いと思いませんか?

おわりに

企画展「公文書ひろいあるき―見て感じる戦前の名古屋―」の展示の主役は公文書です。
ただ、少しでも公文書の面白さを伝えるために、イラストやマンガを使って、とっかかりやすい展示を目指しました。
見て感じる展示です。

少しでも面白いと思えたら、きっと読んでみたくなるはずです。

また、昔の字になじみがない方でも、謎ときのように公文書解読を体験できる【くずし字チャレンジ】コーナーもご用意しています。
冒頭にお見せした、あの文字が読めますよ。

このイラストはくずし字チャレンジのヒントです

公文書なんて興味がない、そこのあなた!
あなたにこそ見ていただきたい展示です。

企画展「公文書ひろいあるき―見て感じる戦前の名古屋―」にぜひお越しください。

企画展「公文書ひろいあるき—見て感じる戦前の名古屋—」
 会期:令和6(2024)年11月13日(水)~令和6(2024)年12月17日(火)
 会場:名古屋市市政資料館 3階 第3・4一般展示室
 ※市政資料館は入館無料です。企画展も無料でご覧いただけます。
 ※休館日:11月18日(月)・21日(木)・25日(月)・12月 2日(月)・9日(月)・16日(月)。

このほか、館内では謎とき企画第3弾スタンプラリーも実施しています。
(謎とき企画第3弾は令和7年3月30日まで)

謎とき企画第3弾

お散歩も気持ちのよい季節、ぜひお越しくださいね。

【注意】
駐車場が狭く、混雑しますので、公共交通機関のご利用をお勧めしております。
(駐車場:普通乗用車12台、大型バス2台)

市政資料館への地図

【公共交通機関】
地下鉄名城線「名古屋城」2番出口から東へ徒歩8分
名鉄瀬戸線「東大手」から南へ徒歩5分
市バス・メーグル「市政資料館南」から北へ徒歩5分
市バス「清水口」から南西へ徒歩8分
市バス「市役所」から東へ徒歩8分