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職員のこだわりが光る徳川園

こんにちは。広報課の鈴木です。
2022年10月下旬、東区にある徳川園を訪れました。徳川園には何度か来たことがあるのですが、四季折々の美しい景色に心が落ち着き、いつもゆったりとした時間を過ごすことができます。
徳川御三家筆頭である尾張藩二代藩主光友が、1695年に隠居所である大曽根屋敷に移り住んだことを起源としており、そういった歴史を感じながら歩くのも風情があって良いですね。

今回は徳川園事務所 課長の堀田さんに、徳川園にかける想いなどを伺いながら、園内をぐるっと一緒に歩かせていただきました。胸が熱くなるようなお話もたくさんお聞きすることができ、より一層、徳川園のファンになりました。

徳川園事務所 課長の堀田さん
今回歩いた園内ルート(★は各ポイントになります)

それでは、堀田さんに園内を案内いただきましょう!
登録有形文化財にもなっている黒門からスタートです。

(以下、堀田さんによるご説明)

★1 黒門

黒門は1900年に完成した尾張徳川家の邸宅の遺構で、総けやき造りの三間薬医門です。一番端の柱から柱の間が三間(約5.5メートル)あり、本柱の後ろに控柱2本が設けられた門のことをいいます。

黒門
黒門に使用されている太いケヤキの梁。
ここまで太い梁は、今ではなかなか使えないのではないでしょうか。

黒門の横に生えているクスノキ2本は江戸時代からあり、樹齢約200年ともいわれています。空襲の時にも燃えずに残っていたという資料もあるので、名古屋の歴史をずっと見てきた大切な木です。

黒門の横に生えるクスノキ

黒門の扉の中央部分をよく見てみると、ハート形の模様があるのが見えますか?

ハート形に見える猪の目の模様

これは猪の目の模様と言って、魔除けや福を招く護符の意味合いがあると言われ、伝統的な日本建築によく使われています。

続いて、屋根の上にカメの瓦が乗っているのが見えますか?

後ろ姿が可愛らしいカメの瓦

四方の方角を司る四聖獣の1つ、北の玄武を現しているとか、カメのようにゆっくり自由に黒門を通って良いという意味があるとか、家康の側室で「お亀の方」という女性がいるのですがその人と関係があるとか、所説ありますが、まだこのカメの由来は正確にわかっていないんです。そういった未知の部分が楽しくて、いろんな想像が膨らみますね。

黒門を通って少し歩くと、何気なく置かれている石があります。これは刻印石で、加賀・前田家が徳川家に収めたものです。前田家の刻印が刻まれていますので、見てみてください。
当時は徳川家から諸大名に邸宅の建築などが命じられ、収めた石などに刻印をしるす習わしがあったそうです。

刻印石。子どもがよく楽しそうに座っています。
右側面に見える前田家の刻印「雁金(カリガネ)」

それでは園内に入りましょう!

★2 虎仙橋(こせんきょう)

園内入口にほど近い虎仙橋から見える紅葉は、秋になるととてもきれいに色付きます。徳川園には紅葉が約300本植えられています。

紅葉時期の虎仙橋 (2019年12月撮影の写真)

虎仙橋を渡ると、スダジイの木が見えます。

スダジイの木

このスダジイの木は手入れが大変で、2021年の夏、長野県飯田市のアーボリスト(自ら木に登り、枯れ木の選定やメンテナンスを行う職人)の方に依頼して、傷んでいた部分をきれいにしてもらったんです。ちなみにその模様はテレビでも放送されたんですよ!
徳川園は園路が狭く、高所作業車が入ることができないため、専門の方に頼んで1本1本の木を大切に管理し、安全面と両立させています。

★3 花菖蒲園(はなしょうぶえん)

花菖蒲は6月ごろに見頃を迎えます。

紫色が美しい花菖蒲 (2019年6月撮影の写真)

実はこの花菖蒲園にも言われがあるんです。徳川光友が1600年代後半、江戸に「戸山荘」という大名屋敷を造りました。そこで歴史上初めて、大名屋敷に花菖蒲園が造られたと言われています。
こういった由来もあり、徳川園はこだわりを持って花菖蒲を植えているんです。これまで、江戸時代に作られた古い品種などを必死になって探して、株を増やしてきました。(1700年頃の文献に登場している最古の品種も徳川園に植栽しています。)私が徳川園に着任した当初は20種類ほどでしたが、現在は69種類約1800株の花菖蒲を楽しむことができますよ。

和傘の演出もとてもきれいに映えます。 (2022年6月撮影の写真)

徳川園は平成16年に日本庭園としてリニューアルし、歴史を重ねていくのはこれからです。「ただきれいな日本庭園」というだけでは名古屋を代表する公園にはなれないと思っています。先人の想いを受け継ぎながら、花菖蒲園のような秘めたストーリーをどれだけ盛り込んでいけるか。唯一無二の場所になれるように、挑戦を続けていきたいと思っています。

★4 龍仙湖(りゅうせんこ)

ここは「木曽の山々から流れてきた川が、愛知の海に注いでいる」、そんな様子を表していることから、職員はみな、龍仙湖のことを池とは言わずに海と呼んでいるんです。

龍仙湖

周辺にはソテツが植えてあります。明治時代まで名古屋城で行われていた明治名古屋城風ソテツのこも巻(冬の寒風避け)は、現在徳川園でしか見ることができません。実は、こも巻をしなくてもソテツは枯れませんし、最近は藁も高騰していてこも巻をするのも大変なのですが、この景色を皆さんに見ていただきたいという思いで行っています。

12月上旬頃~3月上旬頃まで見ることができる、明治名古屋城風のソテツのこも巻
(2020年12月撮影の写真)

そもそもソテツは南方系の植物なので、日本庭園には似合わないと思われるかもしれませんが、当時の大名は南蛮渡来の鉄砲だとか新しいものを重宝していましたから、植物にも目新しさを求めて日本庭園に取り入れていたんですよ。

★5 瑞龍亭(ずいりゅうてい)

尾張徳川家に重用された尾州有楽流に因み、有楽好みの様式を取り入れた茶室です。注目してほしいのが瑞龍亭の目の前にあるこの有楽灯篭です。西村金造という石工芸の第一人者の作品です。有楽好みの灯篭を再現したものを置きたいという当時の名古屋市職員が、西村さんに頼み込んで実現したものです。サラッと置いてあるように見える灯篭にも、先人の情熱やこだわりが込められています。

瑞龍亭の前に佇む有楽灯篭

いつもは戸が閉まっているのですが、金曜~日曜日の晴天時はガイドボランティアの方が花を生けてくださるので戸を開けています。(この日はシュウメイギク)

瑞龍亭の室内(室内に入ることはできません)

★6 もう1つ灯篭のお話をしますと、瑞龍亭の近くにあるこの大きな灯篭ですが、釘などを一切使っておらず、ただ石が積んであるだけのものだったんです。これから大きな地震が来ると言われていますよね。そこで、この灯篭は園路に近い場所に置いてあるため、昨年耐震改修をしています。来園者の安全面を確保しつつ、歴史を紡いでいくということをいつも考えています。

瑞龍亭の近くにある大きな灯篭

★7 牡丹園

ここから牡丹園が広がります。この大きい株はリニューアル時の平成16年からあるものです。名古屋市内は高温多湿なので、牡丹が好まない環境なんです。大きくなるのが難しいのですが、ソテツのこも巻で使った藁をマルチング(乾燥防止などのために植物の株元を資材で覆うこと)で使ったり、もみ殻をまいたりして牡丹を守っています。多くは春牡丹で、3月末ごろから開花します。

平成16年から大切に育てられている牡丹

1月には冬牡丹を展示しますので、ぜひ見に来てください。色彩が乏しくなる寒い時期に、ピンクや黄色などかわいらしい色の牡丹が楽しめます。

1月に展示される冬牡丹。20種類70鉢が園内を彩ります。 (2019年1月撮影の写真)

では、階段を登って、山の方まで歩いてみましょう!

★8 四睡庵(しすいあん)

梅や桃の木に囲まれた休み処になります。

四睡庵

四睡庵周辺にもさまざまな植物が植えられていますが、面白いのが酔芙蓉(すいふよう)という花になります。この時期は2~2.5日程度の花持ちとなり、咲いたときは白色なんですが、どんどん赤くなって酔っぱらったみたいな姿になります。不思議ですよね。9月末~10月上旬ですと、気温が高いので1日で白から赤に姿を変えていきます。

酔芙蓉

こちらは藤袴(ふじばかま)。1000㎞とかずごい距離を飛んで旅をするアサギマダラという蝶(ちょう)が、この藤袴を好んでいて、時々徳川園にも飛んで来てくれるので植えているんです。

藤袴

また、こういった開けた場所にも意味があって、大名が客人をもてなすための広場を表しているんです。

ただの広場ではなく、ちゃんと意味があって広い空間が造られています。

庭園の専門家にもアドバイスをもらいながら園内を造っているのですが、「この広場からもう少し山の景色を見渡せるようにした方が良い」との意見をもらい、将来的に木や笹を少なくしてもっと芝生を増やしていく計画を立てているところです。周りの意見も参考にしつつ、徳川園のコンセプトとマッチして改善するようであれば、改修を重ねていきます。

将来的に木や笹をせん定して、見通しを良くする予定です。

★9 大曽根の瀧

大曽根の瀧付近は、龍仙湖から比べると高低差7~8mほどの高いところにあります。地形を生かした庭園造りが徳川園の特徴でもあります。

迫力ある大曽根の瀧

川からきれいなせせらぎの音が聞こえるでしょう。落葉の時期はこまめに川に入って落ち葉掃除をしているんです。川も計算されて造られているので、掃除しないと音質が変わるんですよ。川は繊細な楽器です。
掃除した落ち葉はSDGsの活動で腐葉土にして、園内で使用しています。

大曽根の瀧から流れる小川
落ち葉を利用して作られている腐葉土

★10 龍門の瀧

山から下りてきました。最後に見てもらいたいのが、龍門の瀧です。15分から25分に1回、滝が流れるのですが、飛び石が置かれていて、あえて水が被るように造られています。滝は大名庭園の中でアトラクション的要素があって、水が被った飛び石を渡って遊べるようにしているんです。

龍門の瀧
実際に水が被った飛び石を渡ってもらっても大丈夫です。
その際は気を付けてくださいね。

この龍門の瀧は、光友が造った戸山荘の跡(現早稲田大学)から遺構が出土し(1998年)、伊豆石など約250トンを譲り受けて再現したものです。江戸時代からあった石を使い、当時の岩組を再現しているため、徳川園の中でも特に歴史を感じていただける場所になっています。

お付き合いいただき、ありがとうございました。これで、徳川園の紹介を終わらせていただきます。
四季折々、さまざまな景色で皆様をお迎えしたいと思いますので、ぜひ来園ください。お待ちしています!

最後に…

(広報課 鈴木)
堀田さんは「先人の方々の意志を受け継ぎ、一つ一つの作業を丁寧に行い、伝統を守りながらも新しいことに挑戦していく」ということを、優しい口調の中で力強くお話しくださいました。
思い返すと、徳川園に来た時はいつも、「景色がきれいだね」で終わっていたように思います。今回、職員の方の想いに触れ、空間の意味などを教えていただき、徳川園の見方がすごく変わりました。
この機会に徳川園を訪れていただき、皆様の新たな発見につながればうれしく思います。

徳川園にはガイドボランティアの方もいらっしゃり、お話を聞きながら園内を回ると有意義な時間を過ごすことができますので、ぜひ利用してみてください。
※庭園ガイド(無料) 開催日:毎週金曜・土曜・日曜・祝日(随時行っていますが、時間帯や天候状況により不在の場合があります。)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※交通・利用案内など、徳川園の詳しい概要については徳川園ホームぺージをご覧ください。

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