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認知症フレンドリーコミュニティ?高齢者の6人に1人が認知症と言われるいま、名古屋市北区の取り組みを取材

名古屋市役所の広報課の丸澤です。
市民の皆さまが抱える「不安」などの社会課題。広報課の職員として、この「不安」などの社会課題を解決しようと奮闘している人や取り組みも知っていただきたいと考えています。

そこで実質的な第1回目の投稿は、広報なごや令和3年2月号で取り上げた北区の取り組み、「認知症フレンドコミュニティ」について詳しくご紹介します。

私は祖母が認知症となり、最後は病院で亡くなりました。母も高齢者でいつ認知症になるか分かりませんし、また若くても認知症と診断される方もいらっしゃるので私自身もいつ当事者になるか分かりません。多くの人が抱える不安かもしれない「認知症」について、北区の取り組みを取材してきました。

認知症フレンドリーコミュニティ?


突然ですが、みなさん「認知症フレンドリーコミュニティ」ってご存知ですか?

令和2年11月号の広報なごやの北区版12面を見ますと、
「認知症フレンドリーコミュニティ」とは、認知症の人が不自由なく日常生活を送ることができるよう、社会全体を認知症に対応させていこうというものです。
と書かれています。

現在、名古屋市には65歳以上の認知症の人が約10万人いると推計され、
「高齢者の6人に1人が認知症」と言われています。
令和3年2月号の広報なごや1面・2面で「認知症」について特集していますので、皆さんご覧ください

「6人に1人」となると、私や私の家族でなくても、もしかすると近所の人がなど、いつ誰が当事者や当事者家族になるか分かりません。
分からないことで、将来への漠然とした「不安」はあろうかと思います。
私も不安を抱えています。「自分だけで」何とかしないといけないという気持ちがあるからだと思います。

北区役所では当事者であっても地域の一員として暮らし続けられるまちづくり「認知症フレンドリーコミュニティ」を目指し、認知症の当事者の方やデザイン領域の専門家、企業の方も入った有識者懇談会、認知症講演会の実施など、様々なことに取り組んでいます。

「認知症の当事者の方も参加されて、会自体が創造的な場となり、アイデアで終わるではなく、実際に認知症の人にとっても履きやすい靴下が作られたり、プロジェクトが進んでいます。フレンドリーコミュニティが既にスタートしているところが新鮮で、私自身もだんだん自分事になっていきました。」
と話してくれたのは、認知症フレンドリーコミュニティ有識者懇談会座長の水内さん。
関係者の皆さまの声、今回たくさん書きましたので最後までお読みいただきたいです。

行政・企業・NPOによる協働のことをさす、コレクティブインパクトという言葉がありますが(この辺りも後ほど記述しています)、「認知症フレンドコミュニティ」の取り組みは、その街に合ったコレクティブインパクトが起きていると言ってもいいのではと思う、すばらしい協働の事例でした。

有識者懇談会の様子をまずは取材してきましたので、そちらから。

有識者懇談会の様子


「北区認知症フレンドリーコミュニティ有識者懇談会」が令和3年2月9日に今年度最後ということでしたので、現場まで取材に伺いました。

会議冒頭

レジュメ等

イメージで恐縮ですが、市役所が開催する会議って、
・市役所の役職者が冒頭に挨拶
・担当者がその日の会議の説明
・特段意見なく終わる
そんなイメージを持っていませんか?(実際にそういった会議はあるかと思いますが、、、)

認知症フレンドリーコミュニティの有識者は
・座長にはデザインの力を社会に役立てるソーシャル・デザインの大学の先生
・認知症の当事者の方
・地域に根ざしたものづくりの企業の社長
に、いきいき支援センター(地域包括支援センター)の方に北区役所の福祉課と様々な関係者が。
会議の中で行われる議論の様子も、グラフィックレコード(通称グラレコ)で上手くまとめられていました。
会議の中の議論も、担当者が「ありたい姿」を語り、認知症の当事者の方が意見を言い、いきいき支援センター(地域包括支援センター)の方が補足したり深堀したり、企業の方が視点の幅を広げ、座長が全体をまとめるという、「会議が生きている」という印象でした。

関係者へのインタビュー


会議終了後、関係者に時間をいただいてインタビューしました。

伊藤オススメ

写真は左から、いきいき支援センターの鬼頭さん、広報なごや2月号の表紙と2面にも出ています有識者で株式会社大醐の後藤さん、有識者懇談会の座長で名古屋芸術大学准教授の水内さん、北区福祉課の安藤さん、そして私(丸澤)です。

(-は丸澤が発言)
―後藤さん、企業の方として有識者懇談会に参加されていかがでしたか?

後藤:最初に声をかけてもらった時に「なんで私に?」と思ったんですけど、企業の視点で参加してもいいかなと思いました。企業として地域との関わりあい方、一つは本業として、一つは企業も地域の住民として、この2つがないといけないと思っていて。
認知症は生活全般に及ぶので、商品を作ることだけでなく、例えば歯医者なら、保険ならと何か必ず全員関わることがあるから、そこに接点を見出すことができるし、関わる企業を増やしたいなとも思いました。

―水内さん、座長として関わられてどうでしたか?

水内:色んな場面で行政の委員をしていますが、意外なことも起きてて、素晴らしい会議でした。今回は鬼頭さんや後藤さん、認知症の当事者の方も参加されて、会自体が創造的な場となり、アイデアで終わるではなく、実際に認知症の人にとっても履きやすい靴下を工夫して作ってみたり、プロジェクトが進んでいます。フレンドリーコミュニティが既にスタートしているところが新鮮で、私自身もだんだん自分事になっていきました。
安藤さんの手のひらで転がされている感じでしたね(笑)


―いきいき支援センターの鬼頭さん、行政でありがちな会議とは今回違ったかなと思いますが、どうでした?

鬼頭:水内さんのようにデザインの専門家であったり、認知症の当事者の方が入り、後藤さんのように生活に密着した企業で、社長で即決力があってという人が入って、ガッと進む感じはバランスが凄く良い会議だったからこそ生まれたのかなと思いました。「ものづくりとはこういうことか!」と感じました。


―皆さんの意見や感想は、始める前から区役所の安藤さんは見越していたんですよね(笑)

安藤:全然(笑)


―安藤さん、会議をするときに、どういったメンバーを巻き込もうと考えてたんですか?

安藤:北区は認知症のある方も多くて、この人たちがずっと住めるようになれるといいなとしか思ってなくて。あんまり最初から難しいものを作る気はなくて、鬼頭さんたちと話をしていく中で、当事者の方もいて、「めっちゃいいじゃん、これ!」ってなって、進めていきました。


―安藤さん達の思いで始まった会議で座長を頼まれて、座長の水内さんどうでした(笑)

水内:最初はお断りをしようかと(笑)でも実際話を聞いてみると、当事者の方がいる、企業の方がいる、いきいき支援センターの方がいる、色んな方がいるので参加してみようと思いました。


―後藤さんは今回新たに靴下を作ってみたりと、関わりが深くなった要因は?

後藤:やっぱり当事者の方と話をしたからですよね。困っている方が、そこにいるんですよね。困っている人がいたら、ものづくりの企業としてはなんとかしたいなと思うのと、社員も当事者の方と出会って、気持ちが変わったのもよかった。

―いきいき支援センターの鬼頭さんは今後の展開、さらに関係者を増やすイメージとかあるんですか?

鬼頭:今回の会議を経験して整理が出来てきたと感じています。認知症の当事者が元気になったり、力を付けていくステップを地域で丁寧につくっていくことが大切だと思います。この方たちが持っている潜在的なニーズなど、その人たちが持っている社会的な意味みたいなものが出てくる場づくりを丁寧にして、それがある程度成熟してきたから共に創れるみたいなことが今回できました。こういうことをどう広げ、どう繋げていくか。今回の会議は色んなヒントがあったと感じています。


―安藤さん、私もですが、市役所職員って異動がつきものじゃないですか。この事業の今年度までにや、来年度をどうするかっていうのはどう考えています?

安藤:三月までに道筋をつけたいと思っています。よかったと思うのが、一 人でなく色んな人とプロセスを共有できたこと。これで継続性が担保できたのではと思っています。出来れば私が来年度もやりたい(笑)


―最後に、座長の水内さんお願いします。

水内:市役所だと異動がつきものだと思いますが、それをネガティブに捉えるではなく、違う部署でのコネクションが出来たとポジティブに捉えるようにしていて。次の部署で認知症に絡めて事業を考えると面白いんではないかと。色んな繋がりがそこで「いきる」ってなるといいなと。
今回、会議の作り方だったり実際に靴下が作られたり、私にとっても勉強になりました。
安藤:じゃ、来年度も関わっていただくということで(笑)

本当はまだまだ話をしたかったんですけど、会場の時間が、、、、。
靴下のプロジェクトなど、引き続きこの事業は追っていきたいと思います。

認知症×ものづくり


アイデアソンなど社会課題に対してアイデアを出していくイベントは行政の中でも増えてきていますが、製品(試作品)まで出てきた事例はあまりないと思います(私は初めてです)。社会課題の会議の場に、企業の方が参加すると製品を作ってということが起こるかというと、必ずしもそうではないと思います。
北区役所は以前から地域に根差した企業と社会課題についての取り組みがなされており、そういった関係性がある中で生まれた会議であり、生まれた製品(試作品)であったんだろうなと思います。また今回は製品を作る時だけ認知症の当事者の方へのヒアリングをするだけでなく、毎回会議に参加してもらうなど常時当事者の方達が関わっていたことが大きかったと思います。
今回はソーシャル・デザインの専門家が座長として全体をまとめ、いきいき支援センターや市役所がつなぎ役として、地域に根ざした企業がアイデアを具現化する、それぞれが役割を持って社会課題に取り組むことで、社会的な成果の創出につながるのではと取材をしていて思いました。

これってコレクティブ・インパクトでは???


読んでいただいている皆さま、「コレクティブ・インパクト」っていう言葉はご存知でしょうか?
経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太方針」の2018・2019に記載があり、2018から引用しますと「行政・企業・NPOによる協働(コレクティブ・インパクト)」と記載があり、注釈として「分野の垣根を越えて様々な立場の関係者が、目標・成果を共有した上で、共通の評価システムの下で、お互いの強みを活かした取り組みを集中的に、効果的に行うことで、より迅速に大きな社会的成果の創出を目指すこと。」と書かれています。

・分野の垣根を越えた様々な立場の関係者=企業・大学・社会福祉協議会・市役所(区役所)
・目標・成果を共有=ガイドの作成
・お互いの強み=企業(ものづくり)、大学(全体設計のデザイン)、
        いきいき支援センターと市役所
(課題の当事者や異なるセクターとのつなぎ役)
というように、インタビューを通して読み取れました。

日本ではそれほど事例は多くなく、「これはコレクティブ・インパクトだ!」と私も断定はできませんが、ただ北区の認知症フレンドリーコミュニティの協働は素晴らしい事例だと思います。
今回、認知症フレンドリーコミュニティを通じて、それぞれの街に応じたコレクティブ・インパクトを見出したような気がしています。

最後に


今回インタビューを通して、「自分事」から「自分達事」への変換が必要だなと感じました。
たくさんの人が関わることで、課題の解決であったり、不安を和らげたり、様々な効果が生まれてくる可能性を感じました。
北区の仕組みを他の地域、自治体ですぐにできるかというと、今までの関係性の中で出来たことだと思うので、難しいかもしれません。ただ、みんなが抱える「不安」などの社会課題は、一緒になって解決してくれる人たちがいると思える場をつくる仕組みが色んな所に広がるといいなと思います。
広報課の職員として、社会課題を分かりやすく発信し、市民の皆さまに「こういった実状なんだ。」「こんなことをしようとしているんだ。」と、知っていただくための「発信力」を強化していきたいと思います。