構想7年!担当学芸員に聞いた、特別展「大雅と蕪村―文人画の大成者」を企画・開催するまで。
名古屋市広報課の丸澤です。
名古屋市博物館、これまでに2つ記事を書きましたが、博物館を知る、特別展を知ることで、改めて名古屋のアイデンティティを知ることに繋がり、取材してて毎回新たな発見をします。
(1)学芸課長へのインタビュー
(2)ゲーセンミュージアム
今回は2021(令和3)年12月4日(土)から2022年(令和4)年1月30日(日)まで開催されている「大雅と蕪村―文人画の大成者」について、取材しにいきました。
文人画、、、歴史は好きでしたので名称は聞き覚えがあるのですが、
「文人画とは、文人すなわち学識ある人物が、余技的に描く絵画のことを言います。」
とのことです。
文人画の代表的な作品に、国宝の『十便十宜図』があります。
この国宝、実は名古屋に縁があるんです!
今回は、なぜ名古屋で「大雅と蕪村―文人画の大成者」を開催したのか、そして特別展を開催するまでの学芸員の動きというものを知らなかったので、その辺りを担当学芸員に取材してきました。
自己紹介
(-は丸澤が発言)
―自己紹介をお願いします。
横尾:名古屋市博物館の学芸員の横尾拓真(よこおたくま)です。市の学芸員として働きだして7年目です。
―学芸員の方、それぞれ専門があるかと思いますが。
横尾:私は分野としては美術史、その中で専門は近世絵画、江戸時代の絵画です。学生の頃は、今回の特別展「大雅と蕪村―文人画の大成者」で取り上げた池大雅を研究していました。
―小さいころから近世絵画に興味を持っていたんですか?
横尾:元々漫画やアニメは好きでしたが、たまたま見た展覧会で池大雅の作品「漁楽図」を見て「こういう作品が江戸時代にあったんだ!」と衝撃を受けました。
そこから池大雅、江戸時代の絵画に関心を持ちました。
―横尾さん自身、名古屋の出身ではないと伺いましたが、なぜ名古屋市で働こうと思われたのですか?
横尾:学芸員の募集は、全国的に見てもとても少ないのですが、その中でたまたま名古屋市博物館で募集があったからというのが正直なところです。
ただもちろんそれだけではなくて、自分が研究してきた池大雅の作品が、実は名古屋に縁があるということを見つけ、これまでの研究が活かせそうだと感じ応募をしました。
開催の経緯や着目点
―池大雅が名古屋に縁があるという話ですが、今回の特別展を開催した理由は?
横尾:池大雅や与謝蕪村は、日本における文人画の大成者として知られています。その2人が競演したことで名高い国宝『十便十宜図』(明和8年〈1771〉、川端康成記念会蔵)は、鳴海宿(現在の名古屋市緑区)の豪商・下郷学海(1742-1790)が所蔵していました。注文したのも学海だろうと考えられています。
まさに、大雅と名古屋との結びつきを窺うことが出来る貴重な作品です。
2021年は『十便十宜図』が制作されて250年のメモリアルイヤーにあたることを以前から意識していましたので、ぜひとも名古屋、この名古屋市博物館で開催したいと考えていました。
―今この名古屋でしか見られない展覧会なんですね!文化芸術に疎い私でも分かるような着目点を教えていただけると、、、
横尾:ポイントとしては2つあります。
大雅・蕪村と尾張の関係。2人とも京都で活躍した画家なのですが、尾張との結びつきも少なからずあったという背景の部分を注目してご覧いただきたいというのが1つ目です。
もうひとつは、名古屋云々に関係なく、大雅と蕪村、2人の名品が同じ空間に並びますので、それぞれの個性を比べながら楽しめるところです。日本文人画の大成者として位置づけられる両者の作品を、近くで見比べることができるのは、またとない機会だと思います。
特別展、いつ頃から企画し始めるのか?
―博物館の特別展というのは、いつごろから企画し始めるのですか?
横尾:今回の特別展に関しては、自分がずっと研究してきた池大雅を取り上げるという事もあって、実は博物館の採用面接の際に「やってみたい」という話はしていたんですよ。ただ、展示資料の借用の交渉など、具体的に動き出したのは3年前くらいです。
―最初に企画した出品のラインナップに比べると、実現できるのは実際にはどのくらいなんですか?
横尾:最初に思い描いていたラインナップから考えると、実現するのは6~7割というところでしょうか。ただ、最初のリスト、ドリームプランと私たちは言っていますが、その段階ではまず間口を広くしておいて、タイミングや予算の問題で希望する資料が借用できない場合も想定して進めています。
―レイアウトとかはどのように?
横尾:自分の中で展覧会を通して伝えたい内容や思いがあるので、「作品をどういう順番で展示すると伝わるか」をまず考えます。例えば「この絵とあの絵が似ていて、その影響関係を伝えたい場合は、隣に置くとわかりやすい」とか、「同じ主題(テーマ)で描いてあるから、並べて比較できるように」とか。頭の中では綺麗な並び順をイメージしますが、展示ケースのサイズに合わなかったり、博物館の規定の広さもあるのでスペースが足りなかったりと、最初に思い描いていたものとは異なってきます。
その中でも自分の頭の中のイメージ、伝えたいことを伝わるような展示にできるように、試行錯誤しながら進めていきます。
学芸員として次への目標
―今回の展示を終えた場合の次の目標などあれば。
横尾:就職面接でも話していた念願の企画が実現したので、さぁ次はどうしようかと、、、
ただ、「名古屋出身じゃない」というのが、コンプレックスでもあり、ひとつのアドバンテージでもあると思っていて、広い視点から改めて名古屋をながめる、あるいは名古屋をできる限り広い文脈の中で捉える、ということは、何をするにしても意識していきたいと思っています。
郷土史という言い方をよくしますが、「郷土の歴史を日本の歴史の中で捉えて見つめ直す」というのは、大切な視点だと考えています。
最後に
名古屋市博物館の学芸員の方、学芸課長も含めて3人目の取材となりましたが、お三方とも難しい話になるのではなく、私でも分かるような例えなどを交えながら話をしてくれます。
今回は、「中国で流行していたが、日本ではまだ世に知られていない文人画がどのように取り入れられ、浸透していったのか?」という話も、「一昔前のポピュラー音楽と似ていますね。」と身近なわかりやすい例で解説してくれました。
なるほど。江戸時代の文人画が広がっていった状況が、一気に身近に感じられました。
特別展が開催されると、担当学芸員の展示説明会が開催されますので、ぜひその機会に担当学芸員の想いなどを聞いていただけると、特別展の見方が変わってくるかもしれません。
博物館ウェブサイトの展覧会のページに掲載されている出品リストで、現在の展示品を確認していただければと思います。
開催が残り僅かとなりますが、是非とも皆様にはお越しいただきたいです。